ショートショート 『砂と石と岩と』

娘と公園に来ていた。
娘は、砂場が好きだ。
公園に行くと、必ずと言っていいほど、砂場で山を作り始める。
旦那に仕事が入ってしまったことで、遊園地に行く予定がなくなってしまった。
それでも、娘が楽しそうな表情で、砂場で遊んでいるのを見ると、遊園地に行きたかったのは、私だけだったのかなと思ってしまう。
公園の入り口近くにある自動販売機では、ガラの悪い子供達が屯していた。
私は、なるべく視線を合わせないようにしていたが、砂場で楽しそうに遊んでいる娘は、そんなことを気にしていないのだろう。
一生懸命に山を踏み固めている。
次は、トンネルを掘り始めるのだろうか。
そんなことを考えていると、娘がこちらに走ってきた。
「ママぁー、これと、これって、なにがちがうの?」
娘の手を見ると、左手には、石、右手には、砂が握られていた。
「これがね、小さくなって、こうなるんだよ」
娘の手を指差しながら説明したが、娘は、分からないという表情をしていた。
「じゃあ、おんなじってこと?」
「そうだよー、大人の人が勝手に名前をつけちゃうんだよ〜、本当はおんなじなんだ」
「ミクとソラちゃんは名前がちがうだけなの?」
「ミクとソラちゃんは、名前だけがちがうわけじゃないよ〜」
「石が、小さくなると、すなになっちゃうけど、石もさいしょは、もっと大きな石だったんだよ。こんなにおっきくて、それをいわっていうんだよ」
娘は、疑問が止まらないようで、しょっちゅう私に聞いてくる。
私にとって簡単なことは、娘に説明できるが、勉強を教えてと言われたら夫に頼るしかなくなってしまう、そのうちに「パパに聞くからいい」と言われてしまないかが心配だ。
「ミクちゃんも、こんなにちっちゃかったんだから」
そんなことを言って、娘の手から砂を摘んで見せたが、娘には、難しかったようで、首を傾げていた。
「ママもすな〜?」
「ちがうよ、ママはね、もっと大きいものだよ、ミクちゃんも大人になると、分かるかもしれないね」
「ミクも大人になれるかな?」
「なれるよ!そのためにがんばっておべんきょうしなくちゃね!」
近くにある、誰かも分からない石像を指差しながら娘に話をすると、先生になったような気がして気持ちが良かった。
石像の方を見て、話をしていると、自動販売機の前にいる不良に目が止まってしまった。
「あの人たちも、ママと同じなの〜?」
「ううん、ちがうよ、あの人たちはね」
口から出かけた言葉を飲み込んだ。
「えっとね、あの人たちはね、石かもしれないし、砂かもしれないね、ミクちゃんと同じで未来なんだよ〜」
娘は、ポカーンとしうながら、わかんないというと、そのまま砂場の方へかけていってしまった。
無意識のうちに不良と自分を違うものと考えてしまっていたが、娘からすればどちらも同じものなのだろうか。
生きていく中で、考え方が変わっていくと思うと、娘の純粋さがとても貴重なものに思えてきた。
もう一度、自動販売機の方へ視線をやると、先ほどは見えなかった不良たちの顔が見えた。
彼らは、まだ若そうだった。
なんの事情があって、集まっているのかは分からないが、そこにいる全員が楽しそうに笑っているのが見えた。
「あの子たちは、未来か」
自分の口から出た言葉をもう一度口に出した。
「未来を潰してしまうのは、私たちの方なのかもしれないな」
娘は、砂山を作り終わったのか、今度は、踏んで壊し始めた。
そろそろ帰るのかなと思い、娘に声をかける。
「ミクちゃんそろそろ帰ろっか!」
「ダメぇーつくりなおすのー!」
娘にとっては、一生懸命作った山も新しい山に比べたらどうでも良かったのかもしれない。
子供は、何度でもスタートを踏み出せる。
私も、そうなのかもしれないと思った。
そう思ったと同時に自分の中にある山が、音を立てて崩れたような気がした。
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