ショートショート 『男にないもの』

男の前には、縄があった。
目線よりやや高めの位置に、綺麗な縄が吊り下がっていた。
男には、時間があった。
壁にかかった鏡を見ると、そこには血色のいい青年が映っていた。
男には、金があった。
左腕の金色の時計は、一秒毎に正確な時を刻んでいた。
男は、目を瞑ると、目の前の縄に手をかけた。
男には、恋人がなかった。
恋はした。
だが、男にとっての恋は、常に片道だった。
男には、友がなかった。
友はかけがいのものだった。
だが、それに気が付いた時には、もう遅かった。
男は、目を開ける。
目の前には、見知った白い天井があり、そのしみひとつない綺麗な天井は、男の誇りだった。
男は、もう一度目を瞑ると、深い眠りへとはいった。
ゆうらいふをもっと見る
購読すると最新の投稿がメールで送信されます。






