ショートショート 『Y氏の計画』

M氏と別れたY氏は、その日の夜に計画を実行することに決めた。
M氏を家に送ると、必要であろう道具を準備するために近くのホームセンターへ向かった。
ショッピングカートに切れ味の良さそうなナイフや太めのロープを入れ、大きめのバックや袋、大好きなチョコレートなど、必要そうなものを次々と買っていった。
この世界に未練がないわけではない。
ただ、それはM氏のためでもあった。
両親が莫大な借金を残したまま、交通事故で死んだことにより、Y氏は大きな負債を抱えていた。
いくら頑張ってもその莫大な借金を返すことができないのは、目に見えていた。
Y氏の唯一の財産は、薄汚れた家であり。
ただ一つ、大切な存在のM氏ただ一人だけだった。
職場では、Y氏とは誰も口を聞こうとはしなかった。
Y氏のいる職場は、Y氏の両親が勤めていた場所であり、Y氏は亡くなった両親の代わりにその職場に通うことになる。
両親の失敗で、莫大な負債を抱えることになったY氏を社長は不憫に思い、職場の人間全員でその負債を分けることにしたのだ。
そのことにより、Y氏の職場の人は、Y氏に対して辛く当たるようになった。
肉体を痛めつけられることには慣れても、誰も口を聞いてくれない状況がつらかった。
生きる希望は、M氏ただ一人だった。
M氏はそんな状況の私と共に歩む道を選んだのだ。
それが、同情なのか、愛のなのか分からないが、一緒にいてくれる人がいるだけでY氏は幸せだった。
ただ、M氏を解放するためにもその計画が必要だと感じていた。
頭の中に、M氏との思い出が流れ込んできた。
お金はなくても二人は十分に楽しめることを知っていた。
笑い合い、そして愛し合った。
車の中で、急に視界がぼやけたが、それを拭おうとは思わなかった。
Y氏に家まで送ってもらったM氏は小さな孤独感を感じた。
Y氏は翌日に仕事があり、朝も早いので無理に引き止めることをしなかった。
それでも、家で一人になることが怖かった。
机の上に飾ってある写真を見て、Y氏との思い出に触れていた。
特に遠出をするわけでもなく、ただY氏の家でテレビを見たり、近くの店からDVDを借りて映画を観たり、私はY氏といるというだけで幸せを感じていた。
私たちにはお金がなかったが、愛があった。
寂しげな左手の薬指を見ていると、Y氏に会いたい気持ちが増してきた。
ただ会いたいというのを伝えるのには気が引けて、Y氏の好きな食べ物とパンを持ってY氏の家を訪れることにした。
バックにパンとナイフ、そしてY氏の好きなチョコレートをいれ車のキーを手にし、Y氏の家へと向かった。
リュックサックを背負い、アウトドア風の服装に身を包んだY氏は、先ほどホームセンターで買ってきたロープを地下室の天井に吊るした。
着実に準備をしてもう少しという時に玄関がノックされる音がした。
どうやら、M氏が尋ねてきたようだ。
ドアを開けると、M氏は食事をしようといって、バックの中に入ったパンや果物を取り出した。
私たちの腹が同時に鳴り、二人で夕食を食べることにした。
ピクニックをする時のように、シートを床に敷いてからその上に果物やパン、それらを切るナイフやチョコレートを並べた。
M氏「なんだか遠足をしている見たいね、それよりもなぜそんな服装をしているの?」
おかしな服装をしていることに気がついた彼女にY氏は、咄嗟の嘘をついた。
Y氏「服の状態を確かめていたんだ、穴が空いていたりしていないかとかね、いざとなった時に使えなかったら大変だろ?」
彼女に切り分けてもらったパンを受け取りながらそう答える。
M氏「リュックサックも背負っているから、本当に冒険をするみたいだわ」
Y氏はリュックサックを背負ったままだったことに気が付き、体の横にそのリュックサックを置くと中から、金属のぶつかる音がした。
幸いにもM氏には聞こえなかったらしい。
夕食が済むと、彼女を玄関まで送った。
また、明日今度会いましょうという彼女の返事に笑顔を送ることにした。
後片付けを済ませたM氏は、家に向かっている途中で、Y氏の家にナイフを置いてきてしまったことに気がついた。
ナイフは、家に数本あったが、Y氏に会いたかったので、ナイフを取りにいくことにした。
Y氏の家に着くと玄関は空いており、テーブルの上にナイフを見つけた。
だが、Y氏の姿が見当たらない。
M氏は、Y氏を驚かせようと思いゆっくりと部屋を回っていったが、見つからなかった。
仕方なく、帰ろうかと思い玄関へ向かうと、床下から物音がした。
M氏は、地下室を見ていなかったことを思い出し、地下室へ向かう。
地下室のドアを開けると、そこの天井に首にはまりそうな輪の形をしたロープが垂れ下がっており、その下には、椅子が倒れていた。
地下室に、Y氏は見当たらず、扉の目の前にある階段を降りることを躊躇っていたが、階段を降りたところにあるテーブルの上に手紙を見つけ、階段を降りていった。
階段を降りる時になるべく、視線を上げようと心がけていた。
やっとの思いで、手紙を手にしたがM氏には何がどうなっているのかが分からなかった。
『 M氏へ
この手紙を読んでいる頃には、僕は異世界に無事に転生していると思う。
知っていると思うが、僕にあるのは莫大な借金と孤独だけだ。
でも、そっちの世界に未練があるとすれば、君だけだ。
僕といれば、不幸になるのにそれを承知で一緒にいてくれたことが、とても嬉しかったし、そのおかげで僕の人生も悪くないなと思えた。
でも、僕にとってはそれが君を縛っているようで耐えられなかったんだ。
だが、安心してほしい。
僕は、今頃そっちの世界では想像もつかない冒険をしていると思う。
もしも、そっちに戻れることがあったら絶対に会いに行くよ。 Y氏』
「ばか、、」
Y氏の書いた手紙には、青年の希望に満ちた思いが伝わってきたが、M氏の目に映るのは、最愛の人の濁った目だった。
薬指を天井から吊り下がったロープに重ねてみると、彼からのプレゼントのように思えた。
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