ショートショート 『穴』

ショートショート

その穴は、かなりの大きさになっていた。
両手、両足で大の字を作っても余るほどの広さだった。
胸の高さになるまで、掘った穴から出るのには、力が足りなかった。

仕方なく、穴の壁を崩し、階段を作って外に出た。
そして、もう一つの穴を作ることにした。

 

中に入ると、地面がお腹の辺りだった。
私は、穴に入り、両腕を穴の外で組みそこに顔を埋めた。
右を見ると、近くにミミズにしては短い個体がいた。

どうやら穴を掘っている時、ミミズを切ってしまったようだった。
ミミズを人差し指と親指でつまむと、私の入っている穴へ入れた。

私は、殺してしまった生き物を穴の中に入れることにした。

靴底を確認してみると、小さな蛾のようなものと蟻が数匹ついていることに気がついた。近くにあった木の枝で、靴底にへばりついた虫を丁寧に剥がすと、穴の中へと入れた。

家に置いてあったペットボトルは、カメムシや小さなムカデ、それと見たことのない虫でいっぱいだった。
蓋を開けると、中からは魚の生臭さとカメムシの匂いがして、吐きそうになった。

祖母は、家の中に入ってきた虫をペットボトルの中に入れていた。
逃すわけでも、とどめを指すわけでもなく、その中に入れた。
入れた当人はペットボトルに入れると、その虫の存在を忘れる。
中の虫たちは、死ぬまでの間、仲間の死骸の上を這いずりながら出口を探し、いつしか、動かなくなる。

ほとんどがカメムシで、中には小さなムカデや足がたくさんついた名前の分からない虫もいた。
ペットボトルの底には、大量の足だけカサカサと音を立てていた。

ペットボトルの口を下にすると、穴の中へ流し入れた。

粘着性の床で息たえたゴキブリもその穴に入れ、蜘蛛の巣で捕まった、動かぬハエと足が2、3本取れている蜘蛛もその穴へ入れた。

穴の底は、様々な虫で覆い尽くされていた。
夏に捕まえて、餌をあげなくなったクワガタも入れた。

穴の中は、黒く光、ひどい匂いがした。

私は色をつけようと、大きな緑色の葉っぱや茶色い落ち葉、白くなった竹、名前の知らない花などを穴へ入れた。

穴は、色鮮やかになり、匂いもマシになっていた。

私は、靴の中に丸めた靴下を入れると、その穴の中へと入っていった。

足には、草の柔らかさと竹の鋭い硬さ、そしてその中には、虫から出てくる液体も混じっていた。

しばらくすると、穴から出て、中を覗いてみた。
最初は色鮮やかに見えた穴も、土が混じり、灰色の塊のようになっていた。
塊の中には、ところどころに虫が紛れ込んでいた。

穴から出ると、最初に掘った穴へと向かった。
底には、自分と同じくらいの大きさの生き物が横たわっていた。

私は、先ほどと同様に彩をつけるとそのまま踏み始めた。


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