ショートショート 『腐ったみかん』

リビングで話している両親の声がかすかに聞こえてきた。
湯船に浸かっていた私は、静かに蛇口を捻り、水で鼓膜を包み込んだ。
蛇口から出てくる水は、自然と、不自然な音の全てと調律をはかっているようだった。
湯船に流れ込む水を見ていると、昨日母と食べたみかんを思い出した。
みかんは、とても瑞々しかった。
みかんを食べるために、爪の隙間を薄く染め、みかんから出てくる汁は、親指を痺れさせた。
みかんの皮を剥き終えた私は、中身を均等な距離に配置していた。
目の前にいた母も気になったのか、みかんをひとつ手に取った。
だが、そのみかんは、黒ずんでおり、私はそれに嫌悪感を感じた。
母からみかんを渡してもらい、ゴミ箱へ捨てようとした。
母は、私を呼び止めると、私の手からみかんを取り、大事そうに皮を剥いていった。
皮を剥き終えた母は、三日月が並んでいるようにみかん並べ、見比べた。
一番平気そうなものを口に入れると私は、その反応をまった。
気になった私は、母の前に並んだ一番悪そうなみかんを手に取ろうと手を伸ばした。
蛇口の水を止めると、リビングからの音はなく、私は風呂から上がることにした。
腐ったみかんは、ゴミ箱のそこに沈んでいた。
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