ショート・ショート 『観客はかぼちゃ』

「観客をかぼちゃだと思え!」
頭の中に響いた声は、足元に落ちた。
眩しい光が照らされる中、黒い影が私の方へ叫んでいた。
頭からつま先までの体の至る所に神経を研ぎ澄まし、表現をするということがこれほどまでに大変なのかと思い知る。
頭の中にある、登場人物のイメージを全身で表現し、唾を吐き出ながら音を出した。だが、観客が目に入ると、私の体は、油を刺すのを忘れた人形のように動かなくなった。
黒い影の声は、私がぎこちない音を立てるごとに大きく聞こえた。
私は、一度、主役に選ばれたことがある。
だが、極度の緊張により、ステージ上で頭が真っ白になった。セリフが口から出てくることはなく、私と主役の座を取り合っていた、友人がアドリブをつけて、私をステージから救ってくれた。
その時から私は、ステージに立つことを極度に恐れた。
舞台裏で小道具を配置する役を任されたが、私の心はステージに置き去りだった。目の前では、舞台上で輝く仲間たちが演じ、歓声を浴びている姿が羨ましかった。私は、自分を変えたかったのだ。
リーダーに話すと、オーディションを受けるように言われた。
私は、舞台に上がりたい、でも、本番になると緊張して、頭が真っ白になってしまう。その時に観客はかぼちゃだという言葉をリーダーにかけてもらった。
「観客は、かぼちゃだ!」
かぼちゃ、かぼちゃ、かぼちゃ、かぼ、、
そう考えていると、観客席に座っている人間が、ジャックオランタンのように見えてきた。
オレンジ色のかぼちゃは、不気味に微笑み、目には、蝋燭のような小さく鋭い、光が灯っていた。
オーディションの最中リーダーの頭が一瞬、オレンジ色になった気がした。
しかし、瞬きをするとすぐに戻ってしまった。
「観客はかぼちゃだ!」
「観客はかぼちゃだ!」
「観客は、かぼちゃだ!!」
ステージ上を照らしていたライトが急に消えた。
どうやら、トラブルが起きたらしかった。
私は、構わず演技を続けた、こんなことでオーディションを終わらせたくない。真っ暗な状態で私は、内臓から声を振り絞った。
ライトが点き、中指の爪、髪の先に至るまで、全身で表現した。
そして、ついに私の目には、リーダーを含めた観客席に映る人たちがかぼちゃに見えるようになっていた。
腕を組んだ、ジャックオランタンが頷いた。
私は、最後まで演技を続け、主役を手に入れることができた。
だが、少し経って、かぼちゃが人間に戻らないことに気がついた。
困った。
服装や動作で判断するしかない。
だが、かぼちゃに見えることで、都合がいいこともあった。
私は、次の劇が終わるまで、それが続くことを願った。
私にとって、観客はかぼちゃだった。
私は、主役だからだ。
私がステージ上で生まれ変わった時から私の世界は変わった。
大切は母、父。カフェの店員。私に関わる全てに人間はかぼちゃに変わった。
私は、ステージ上で頭が真っ白になった経験を繰り返したくないという強い思いがあった。このまま、かぼちゃのままでいいではないか。
目の前にいる、かぼちゃが私に顔を近づける
私は目を瞑ると、それにキスをした。
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