洗剤とめんつゆと酢と

台所では無数のコバエが飛んでいた。まな板の上には切られた生肉と玉ねぎがあった。コバエはその生肉の匂いが好きなのだろう。肉に止まり、私はそのコバエを払おうと、手に持った包丁で叩こうとした。包丁は宙を切るが当たらないことと、やけにしつこいコバエに私はだんだんと苛々とした気持ちになる。生姜焼きを作りたいと思ってはいたが。まずはコバエをどうにかすべきだと思った。
三角コーナーの近くにはリンゴの形をしたコバエ捕りが置いてある。埃を被ったそれは機能しているのか分からず、しばらく時間が立っているようだった。いつ置かれたのか、誰が置いたのか、私には分からない。ただ、その中にある固まったジェルは確実にコバエを捕え、殺しているのだから、機能しているのだろう。わざわざ、リンゴのコバエ捕りを買ってくるのは面倒だったので私は携帯で調べてみることにした。『ペットボトル コバエ捕り』どうやらコバエ捕りは安価に作れるようだった。
ペットボトルをカッターで半分に切り、中にめんつゆと酢を入れる。それはコバエを誘う役割があった。そこへスプレーの洗剤を流す。それは界面活性剤によって、羽の機能を落とすためのものだった。虫の羽が水に濡れても平気なのは、羽の表面に油が付いているからだという。油が水を弾き、羽、本来の機能を充実させるのだ。しかし、界面活性剤によって油と水は中和される。中和されれば、コバエはめんつゆと酢の中に溺れて死んでいくだろう。私はペットボトルの底に溜まるコバエを想像した。
数匹のコバエはペットボトルの上で輪を描いているようだった。意味を感じられない不規則な動きをしている。しかし、その不規則な動きにはやはり、何か意味があるような気もした。一匹のコバエがペットボトルの淵に止まった。羽を休めているのだろうか。私はそのコバエがペットボトルの中へ収まっていくことを期待した。一匹のコバエは淵から壁を伝い、ゆっくり下へと潜っていく。酢の匂いが漂ってくる。液体の底にはすでに捕まったコバエが黒い粒のようになって僅かに動いていた。私はそこにコバエが沈んでいくのを待った。壁を伝い、頭を液体に入れる。いずれ、足のばたつきは消え、そして、コバエは溺れた。
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